秋葉で絶望

小学生の、四年生の時。兄と二人でオタクを見に行ったのよ秋葉まで。あたしは他のオタクなんか興味なかったけど。着いて驚いた。見渡す限りオタクだらけなのよ。道の向こうにいる蛆虫みたいなオタクがびっしり蠢いているの。日本のオタクが残らずこの空間に集まっているんじゃないかと思った。でね、兄に聞いてみたのよ。ここにはいったいどれだけのオタクがいるんだって。休日だから五万人ぐらいだろうって兄は答えた。買い物が終わって駅まで行く道にもオタクが溢れかえっていたわ。それを見て、私は愕然としたの。こんなにいっぱいのオタクがいるように見えて、実はこんなの日本のオタク全体で言えばほんの一部に過ぎないんだって。家に帰って電卓で計算してみたの。日本のオタク人口が一千万ってのは雑誌*1を読んで知っていたから、それを五万で割ってみると、たった二百分の一。あたしはまた愕然とした。あたしなんてあの秋葉にいたオタゴミ*2の中のたった一人でしかなくて、あれだけたくさんに思えた秋葉のオタクたちも実は一つかみでしかないんだってね。それまであたしは自分がどこか特別なオタクのように思ってた。アニメを見るのも楽しかったし、何より自分が他のどのオタクにも負けていないように思っていたのよ。でも、そうじゃないんだって、その時気づいた。あたしが一番のオタクだと思って尊敬していたオタクの兄も、あんなの日本のどこにでもありふれたオタクでしかないんだ。日本全国のすべてのオタクから見たら普通のオタクでしかない。そう気づいたとき、あたしは急にあたしの周りの世界が色あせたみたいに感じた。夜、深夜アニメを寝ずに見るのも、休日朝起きてアニメ・特撮を欠かさず見ていたのも、どこにでもある、みんながみんなやってる普通のオタク的日常なんだと思うと、とたんに何もかもがつまらなくなった。そして、世の中にこれだけのオタクがいたら、その中にはちっとも普通じゃないオタク人生を送っている人もいるんだ、そうに違いないと思ったの。それがあたしじゃないのは何故?小学校を卒業するまで、あたしはずっとそんなことを考えてた。考えていたら思いついたわ。高レベルオタクには待っててもなれないんだってね。中学に入ったら、あたしは自分を考えてやろうと思った。新作アニメを待ってるだけのオタクじゃないことをオタク界に訴えようと思ったの。実際あたしなりにそうしたつもり。でも、結局は何もない普通のオタク。そうやって、あたしはいつのまにか中学二年生になってた。少しはオタクレベルが変わるかと思ってた。


まるで小学校弁論大会の出場者みたいにクルスは一気にまくしたて、書き終えると書いたことを後悔するような表情になって投稿ボタンを押した。

*1:立ち読みしたネットランナー(笑)。

*2:通称「人混み」